うさの上強膜炎&ブドウ膜炎
PART2  9/24〜10/4 うさとのお別れの日まで

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1999年9月24日(金)

食欲低下は回復しない。更に、昨日あたりから多少、斜頚気味。患っている右目側に頭が傾いている。手で頭を真っ直ぐにしても手を離すと右側に傾く。目の痛みで、かつてもそういった感じの時もあったのだが、今回のは、それよりも角度がきつい。明日、通院時に診てもらおう。


9月25日(土)

12度目の通院。 
体重測定の結果またもや1.34kg 。先週より少々減少。相変わらず食べていないので、仕方がない。まずは触診をしてもらう。先週は、胃腸内にまとまった内容物が留まっているとのことだったが、今回はそれが無くなったとのこと。しかし、相変わらずの食欲低下の為、引き続き先週同様、腸を動かす為の薬を続けることに。更に、皮下輸液も行うように指導される。皮下輸液の目的は、腸に水分を補うだけでなく、体の脱水状態を改善する目的というのも大きいらしい。背中の肉を大きく掴んでねじり、ぱっと手を離したときに、脱水していない正常な場合は、ぱっと一瞬で肉が元に戻るのだが、脱水している場合は、なかなか戻らないとのこと。うさは、脱水状態がかなり進んでいるらしく、背中の肉にやる気が全く感じられない。見た目にもそれは明らかで、体全体の肉(皮)が下がっているような状態。
  
  先生が診ても、やはり頭は傾いている(斜頚)。ただ、通常は目の痛みで頭が傾くことはあまり考えられず、傾く原因はやはり耳ではないかとのこと。早速、耳の掃除とそれで採取した耳垢の検査をして頂く。結果、左右の耳垢から真菌が検出された。左耳については靴下をはいた状態なので、思うように左耳の掃除ができなかった為?耳の見える範囲のところまでは、よく脱脂綿でお掃除してあげていたが、さすがに奥までは綿棒を入れられなかった・・・。可愛そうに治療箇所が更に増えてしまった。薬は点耳薬が増えることに。さすがに今回はステロイドは使用しないらしい。

今週の治療。 
   ・抗生物質内服薬1日2回
   ・腸を動かす為の薬2種 1日2回
   ・目の洗浄薬1日2回
   ・血管収縮剤1日2回
   ・タリビッド点眼液1日3回
   ・皮下輸液・点耳薬1日2回


9月27日(月)

野菜・果物を少量しか食べない為、栄養価の高いもので、目先の新しいものを与えたく思い、土手にタンポポの葉を摘みに出かける。犬猫が通らない傾斜のきついところで、虫食い穴のないものを選んで摘む。家に帰って、1枚1枚流水で洗って、さらにキッチンタオルで1枚1枚挟み込んで水気を拭き取る。野のものなら、きっと新鮮だし匂いもいいので食べるかな?と思いきや、うさは全く見向きもせずしらんぷり。 しかし、数時間後、タンポポをむしゃむしゃ食べる。気に入ったようだ。
 
  うさが食べるものがどんどん減ってきた。今まで頑張ってかじりついていた人参も、一口かじっただけであきらめる。口の動きが遅く、食べている最中の歯ぎしりもひどい。ここ最近お気に入りだった小松菜もほとんど食べない。ペレットは全く食べない。たまに一度口に入れることはあるが、すぐに口から吐き出す。硬いものが食べられないのかと思い、ふやかしたペレットをあげてみるがそれも食べない。食べるのはキャベツ、パセリ、レタス、リンゴ、大根菜、小粒のクッキー、そしてタンポポの葉を少々。昨日の朝、糞を確認してから、その後、ほとんど糞をしない。たまに糞と一緒に、粘々したちょっと黄色い透明のゼリー状の粒々がおしりのまわりにへばりついていたりしたが、それがだんだんと、糞が混じることなく粘々だけになった。

  うさの歯ぎしりがひどいので、前々から疑っていた口の中をちょっと見える範囲で見てみようと思い立つ。
最近、水の飲み方もおかしい。正常な時は、水の入った容器で、水の表面に口をつけて飲んでいた。最近は同じ容器でも、水の中に思いっきり口を突っ込み、下あごをびちゃびちゃに濡らして飲む。ひどい時には鼻まで水の中に突っ込んで水を飲み、ぶしゅっとくしゃみをして驚いた顔をする。顎の感覚がないの?と疑ってしまう。濡らした下あごからは、水がしたたっているが、それをぬぐうことも無い為(バランスが悪い為かもしれない)、毎回私がティッシュで拭いている。
  歯をチェックすると、前歯全く異常なし。奥歯はどうしても見れない!歯茎や舌に傷や潰瘍があるかもしれないと、きれいに洗った指を口の横から滑り込ませる。すると、うさの口の中に何かがある。口を開けさせてみると、かじった人参のかけらがポロリ。すごくショック。かじり取ったものを噛み砕いていないなんて。口の中を触っても異常はわからない。奥歯も触れるところは触ったが、とくに突起は無いような・・・。指を入れると、うさが口をくちゃくちゃするので舌が割と奥まで見える。ライトで舌もチェックするが、異常なし。
  その夜、再度口の中を見ようと試みた際に、また口の中からキャベツがポロリ。何だか、ただ事ではない。


9月28日(火)

13度目の通院。
うさが2日間全く糞をしない為、急遽病院へ。何があってもすぐに対処できるように初めて本院へ行く。昨晩採取した半透明の粘々の粒粒を持参。先生に見せると「これは通常なら食糞の糞の中に含まれるものなので、変なものではない。」とのこと。そして触診でお腹の中に内容物が確認される。先生は「切開して取り除くことははっきり言って勧めない。体力が無いこと、そして、手術が成功してもうさぎさんはその後亡くなるケースが大変多い。今までの薬の処方量を増やして対処しましょう。」ということだが、私の方も手術なんて全く考えてはいなかった。   更に、長いこと続く食欲不振の原因を「歯」「顎」「口の中の潰瘍、傷」ではないかと気になっている為、どうにか口の中を見てもらうことはできないかと相談
してみる。この先生には、前にも一度、口の中を診てくださいと頼んで、ペンライトを口の中に入れて奥歯を覗いてもらったことがある。その時は「はっきりとは見えない」とうやむやになってしまっていた。今回もやはり「麻酔を使用しないと口の中は診れない。ただ、今はこんな状態だから、見るのは相当危ない。まずは体力を回復させないと。今のうさちゃんの状態だと、入院という選択も出てくるが、入院させたから必ずしも回復するとは言い切れない。入院中は胃の中にチューブを入れて強制給餌させる形になるので、食べない心配は無くなるがうさぎの性格によっては環境変化やストレスで状態が悪化することも十分にありえる。2〜3日入院して改善すれば良いが、正直言っていつお返しできるかはわからない状態。でもとりあえず入院を勧めますが。」 と言われる。私は迷うことなく「連れて帰ります。」と答えた。何故なら、うさにとって入院はマイナス面が多すぎると思われたから。今はまだ、自分で食べようという気力がある。もし、胃の中にチューブを通して強制給餌されたら、「食べよう」という本能が無くなってしまう。更に狭いケージに1日中入れられて、周りには同じく入院中の犬・猫・鳥がうるさく鳴いている環境。お日様も射さないから日向ぼっこもできない。1日中誰かが側についていて体を撫でてくれるでもない。しかし一番の理由は、何より私自身のエゴで、こんな場合にこんなことを言ってはいけないのだが、私が1日たりともうさから離れるのは嫌だったから。
入院は断ったものの、今回もこのまま引き下がる訳にはいかないと思い、私のほうから「レントゲンで判る場合もあると聞きます。撮ってもらえないでしょうか。」と交渉。奥歯が大きくずれていたり、伸びていたり、傾いていたりと変化があればレントゲンでも確認できるという話を聞いたことがあるし、顎の骨に何か変なところがあるかもしれない。更に今回は糞も出ない状態の為、お腹の中にガスが発生している可能性もある。「どうせだから、頭部と腹部のレントゲンを撮って下さい」とお願いする。
  レントゲンの結果。まず上からと横からの頭部2枚。この2枚を見る限り、奥歯は長さも向きも異常なし。(しかし、とげのような突起は角度や写りかたによってレントゲンには現れないこともある。)そのかわり、耳の異常が写し出された。左耳(前回の斜頚原因)の耳道がほぼふさがっているようだ。右耳(今回の斜頚原因)のじどうはかろうじて繋がっている。そして左右の耳ともに、耳の付け根の奥の方(頭の中)が丸く真っ白に写っている。正常ではないらしい。
  次に腹部2枚。先生は「通常、うさぎの腹部のレントゲンには、割とはっきりと臓器が写し出され、臓器の区別がつきやすいもの。しかしうさちゃんのレントゲンでは、臓器の区別が殆どつかなく写っている。脂肪も全然無い。」というようなことを言っていた。その通りで、うさの腹部のレントゲンは、白くもやもやだらけで、どこが胃なのかもよく判らない。ただしガスは発生していないことだけはわかった。

今週の治療。 
   ・抗生物質内服薬1日2回(増量)
   ・腸を動かす為の薬2種 1日2回 (増量)
   ・目の洗浄薬1日2回
   ・血管収縮剤1日2回
   ・タリビッド点眼液1日3回
   ・皮下輸液・点耳薬1日2回
家に帰って、うさを休ませる。しばらくしてちぎったキャベツ等を食べだす。これで糞が出てくれれば。入院を断って家に連れ帰って来たことが正しかったのかわからず悩んでいたところ、夜になってゼリー状のものにくるまれた糞が出た!その後、極小の糞がいくつも出てきた。一安心。


9月29日(水)

  うさが自分で食べる野菜の量が少ないので、ペレットをすりつぶして野菜ジュース(食塩・加糖なし)を混ぜたどろどろのものをシリンジで与えてみる。入院とまで言われたからには自宅で強制給餌しなければ。口の中に極少量ずつ入れるが、薬よりも嫌がる。また、口の中に流し込まれたものをそのままにして、飲み込んでくれない。 時間をかけて2ccだけ与えられた。今日は、人参とりんごのすりおろしをちょっと多く食べてくれたのでこれでよしとする。
  こんな状態でも、冷蔵庫には反応して、野菜室の引き出しを開けると3回に1回くらいはゆっくりとやってくる。しかし、何を差し出しても食いつかない。最近、野菜室の中は葉ものを中心とした野菜がてんこもり。全てうさに食べて欲しいが為なのに。うさも食べたいのに食べられないといった様子。本当に何とかしてあげたい。


9月30日(木)

心なしか、首の傾きがゆるくなったような気がする。しかし、食欲低下は一向に回復せず、目に見えてうさの体調が悪いのがわかる。まず、毛づくろいを全くしない(できない?)。次に食糞をしない。これはあきらかにできないらしい。食糞しようと体を丸めるが、体のバランスを上手く保てずによろけてしまい、あきらめてしまったようだ。 更には性欲が全く無い。今は「ぴー」で釣ることも不可能。ぴーと一緒にしたところで、何の反応も示さない。ぴーはうさの周りを興奮気味に回るのだが、うさは全く無反応。においをかごうともしない。うさは、一日中、ケージ内かテーブルの下のお気に入りの場所にうずくまっていて、食事や水を飲む時だけ移動している。排泄は、どこでもする。トイレに入ることは無くなったので、ケージの床全体をペットシーツにしている。しかし、そこでも1箇所に排泄場所をしぼることなく、あちこちでオシッコをしている状態。アルツハイマーになってしまったのでは?


10月2日(土)

午前4時、うさのケージから、物音がする。最近あまり動かないうさが走っているような音。嫌な予感。慌ててケージをのぞき込む。うさが右回りに走っている。小さな円を描くように同じ場所を走っている。すぐに体を押さえ、走りを止める。「転げている」「回転している」のではない。「ぐるぐる走っている」状態。眼振はみられない。白目もむいていない。しかし、前回の斜頚のことが頭をよぎる。最近、斜頚気味だったので心配はしていたのだが。うさはすぐに落ち着いたが、心配なのでそのままケージの前で私も寝る。
   午前7時、またもやケージの中から物音。飛び起きてみるとやはりうさが右回りに走っている。すぐに体を押さえて止め、落ち着かせる。今回も眼振のたぐいは見られない。 
  またいつ「くるくる」するかわからない。とりあえず、その際にケージに体を叩きつけて怪我をしないように、ケージ内をガードしなければ。前にうさ・ぴーの為に作った座布団が山ほどある。(トイレにされてしまった為、使用中止となっていた)とりあえず、それをつなげてひもを縫い付け、ケージの内側、下のほうを取り囲む。ピンク地に茶色いうさぎ模様のプリントで、なかなか可愛いケージになった。 うさは、ここ最近手足に力が入らなくなってきていて、踏ん張ることができない様子。ペットシーツの上ですら、手が滑ってどんどん前傾姿勢になってしまう。(ただ、目的の場所にはゆっくりと走っていくことはできる。)毛づくろいや食糞も、よろけてできない状態だから、クッションガードで少しそれが助けられるといいのだが。

  14回目の通院。体重測定の結果1.32kg。出かける前、少々ペースト状の軟便をしていた。とりあえず糞は出ている。
  今朝方2回うさが「ぐるぐる走り」をしたことを先生に伝える。「今は、もう治療方法を変えようが無い。ただ、抗生物質の量をMAXまで増やすしかない。」とのことで、今日から抗生物質の投与量がうさに与えられる最大値まで引き上げられる。正直言って、抗生物質を長期に渡って与え続けることに不安もあり、今度それがMAXの量になる。ということは、今後これよりもひどい状態に陥った時はもう対処方法はないのか。今回の先生は、今までで一番多くうさを診て頂いている先生。火曜日に、本院へ駆け込んだ際、入院のお話を断ってきたことを話すと、「自宅で最後まで看取ってやるのもいい選択」と言われる。私の選択も間違ってはいないらしい。どんどんやせ細っていくうさに、どうにか安全で栄養化の高いものをシリンジで強制給餌の形で与えたいと思い、何か栄養補助食品はないかと尋ねてみる。そして先生が出してくれたものは犬用の「ニュトリ-カル」。ラキサトンと同様のパッケージで、中身も同様の茶色い水飴状。シリンジに後ろから流し込んで与えると与えやすく、うさも口を動かして舐めている。他に、粉ミルクの代用品で大豆でできた粉ミルク「ボンラクト」という商品を勧められる。これは薬局等で取り扱っている。更に、粉末状の食物繊維も与えると良いとのこと。

今週の治療。 
   ・抗生物質内服薬1日2回(MAX量)
   ・腸を動かす為の薬2種 1日2回 (増量)
   ・目の洗浄薬1日2回
   ・血管収縮剤1日2回
   ・タリビッド点眼液1日3回
   ・皮下輸液
   ・点耳薬1日2回


  病院帰りに薬局で大豆粉ミルク「ボンラクト」と粉末食物繊維「イージーファイバー」を購入。 
  夜、強制給餌。苦にならないように飲む量を少なくしてあげたい為、ボンラクトを少量の水で溶く。そこに「イージーファイバー」少々。シリンジで与える。更に「ニュトリ-カル」少量をシリンジで与える。この他にもシリンジで薬を与え、目薬を数種さし、点耳薬をさし、しまいには首に皮下輸液。うさのストレスも相当なはず。 
  そしてまたいつ「くるくる」になってしまうかわからない危ない状態。心配で、うさの側から離れられない。今日も、というよりこれからずっと、うさの隣で寝ることにする。うさのケージの扉を開けて、そのまん前に平行に座イスとクッションを並べ、タオルケットを掛けて寝る。


10月3日(日)

夜中、何度となく起きる。うさが下痢気味。トイレをどこでもしてしまう状態の為、座っているところで下痢便をするのだが、そうするとお尻が気持ち悪いらしく、びょんと飛びのく。その物音がする度に、起きてケージ内の下痢便のお掃除と、うさのお尻を拭く。下痢の原因は多分、強制給餌で慣れないものを与えた為だと思う。
  日中、うさのケージの前に座イスを置いたまま、うさと一緒に日向ぼっこ。うさの体に顔をうずめると、下痢気味の為、いつものいい匂いではなく、ちょっと臭う。お腹からお尻にかけて下痢便がついていて、こすっても取れない。お風呂に入れて洗ってあげたいが、今はこれ以上ストレスになることは避けよう。見れば見るほど、うさが弱々しく見える。息づかいも、深くゆっくりとして何だかもう10歳以上のご長寿おじいちゃんうさぎみたい。ぴーと見比べると、ぴーはまだまだ娘のよう。
  うさをよくみると、何だか白っぽい。前にぴーが毛球症で危なかったときと同じような感じ。白っぽい。それは、耳の中、目のふちがピンクではなく白に近くなっているから。うさの体温が下がらないように、ケージの床半分にタオルにくるんだパネルヒーターを敷く。
  今日は夜まで下痢便は続くが、何度か軟便ではなく極小粒ではあるが形のある糞をする。やはり軟便の原因は食べ物のせいと見受けられる。昨晩から今日にかけては「くるくる」がなかった。今晩も添い寝する。


10月4日(月) 〜うさとお別れの日〜

午前1時頃、ケージの中からガタっと物音。また下痢便かな?とケージの中のうさに手をやる。何だか一生懸命滑らないようにもがいている。数日前から手足が弱ってはいたが、こんなにもがくなんて???電気をつけてみると、何だかうさの下半身がおかしい。左右に張り出しているべき腿が、くぼんでいるというか、体の中に入っているというか。内股になっているような感じ。驚いて、うさの体を抱えて絨毯のほうに置いてみると、やはり、下半身が立たない。すべっているのではなく、下半身が麻痺してしまっているようだ。お尻には下痢便を付けていて、それが気持ち悪くて一生懸命飛びのいて、物音がしたらしい。脚をつかんで、正常な状態にもっていっても、すぐに手足が開いていってしまう。お尻の下痢便を拭き取り、体全体をマッサージする。ケージ内に戻しても、タオルの上でもずるずる滑る。そこでフラットなクッションをケージ半分に置き、そこにペットシーツを敷き、うさをのせる。ちょっと体が沈む感じで、おさまりがいい。うさもようやく落ち着く。
  その後、うとうとと眠ろうとする度に、うさがガタッと飛びのく。下半身は麻痺しているが、必死で場所を移動している。その度にお尻を拭き、お尻の下にティッシュを2枚敷いてクッションの上に戻す。途中、うさの手を握り締めて何度かうとうとしたが、結局ほとんど不眠状態で朝になった。


午前中から、うさのケージには暖かい日が射し、うさは日の射す方向に顔を向けて眩しそうに半分目を閉じている。そんな光景を見ていて、すごくすごく悩んだ。病院に連れて行こうか、それともこのままそっとしておこうか・・・。こんな時でも、うさに薬と強制給餌はしなければと、うさの口元にシリンジを近づけた時、「おや?」と思った。というのは、うさの下顎の辺りがぷっくりとピンクにふくれていた為。触ろうとすると、思いのほか強い力で手を押しのける。ようやくちょっとだけ触らせてくれたが、何だかぷよぷよしている。膿んでいるの?と心配になり、病院に連れて行くことを決意。遠いが、何かあったときにすぐに処置ができる本院に行こう。本院は非常に遠く、バスをいくつも乗り継ぐか、電車を乗り継ぐかしないと行けないが、今のうさの体力では、移動の際にあまり揺れるのは好ましくないと思い、タクシーを手配した。

  出かける前に、うさの体を撫でていると、朝いつもどおりの量の輸液をしたのに、もうすっかり吸収されている。脱水症状もかなり進行している?これから病院へ行って帰ってくるまで数時間かかるので、半量の輸液をしよう。私一人で輸液を行うのは初めて。不安だったがうさの為と思いきって処置。予想外にすんなりと終わった。
  今朝、出掛けにうさパパがビデオカメラとデジカメを私に渡した。「うさを撮ってあげなよ。」と。私は、弱ったうさを撮るのがかわいそうでここ数ヶ月極力それを拒んできた。しかし、今は何故だか「撮らなくちゃ」と思えた。写真を数枚撮り、ビデオを回した。撮影中にうさがちぎった野菜を口にした。「頑張れ!」しかしすぐにうさがクッションの上から飛びのいた。また便が出たらしい。そこでビデオを回すのはやめた。
  そろそろ出掛ける時間。キャリーバッグの中にうさを入れうさの左右とお尻のところに丸めたバスタオルを詰める。安定しない体に無理がかからないように
気遣う。更に、背中に保温の為ハンドタオルを乗せる。
「ぴーちゃん、行って来るよ。」キャリー越しにぴーちゃんとうさが向かい合う。


病院にて

15度目の通院。道が空いていて、思ったよりも早く病院にたどり着けた。 
体重1.2kgくらい(本院の体重計はデジタルではないのでおおよそ)。今日の先生には前に1度だけ診てもらった事がある。薬をもらうだけに近い時だったので、あまり詳しくは診てもらった覚えが無い。触診、目の状態、下半身の状態を診てもらう。ところがこの先生、変な言い方だが、すごく詳しいし話すこともまとも。複数の先生に診てもらっていると、患者側からみて、この先生はうちのカルテをあまり読んでいないなとか、うさぎはあんまり得意じゃないでしょとか、ちょっとわかってしまったりするもの。この先生は話していて信頼できると思い、色々と突っ込んで質問し、アドバイスを求めたりした。うさの状況は、先生から見て相当悪いものらしい。神経麻痺まで出てしまった今は、私にもそれはよくわかっている。 
  
   うさの顎の下のふくらみは、いつも水を飲んだ後に顎が湿った状態になっていたのが原因で炎症を起こしているだけとのこと。早く治るように下あごの毛をそってもらった。家でイソジンを塗るように指導される。 
  どうしても気になる口のことも相談してみる。レントゲンでは何もでないが、やはり可能性として消去されたわけではない為、疑ってしまう。先生がペンライト 
で覗いてくれることに。口の中にペン先を入れた先生から、「来る前にチンゲン菜食べさせました?」と聞かれる。うさの口の中にはまたもやチンゲン菜が入っていたらしい。そのことに先生も訝しげな様子。まずは右下問題なし、次に右上も大丈夫というように順に奥歯を診ている。ペンライトを突っ込まれたうさが嫌がって口をくちゃくちゃしている隙に、下と頬の内側もチェック。奥歯にトゲ状の歯は絶対にない。さらに、見える範囲の口中に傷・潰瘍もない。これだけ舌を動かせていれば、舌の奥に潰瘍があるとは考えられない。との結果。やっと、口の中には何も原因がないことが判明した。初めから、この先生に当たっていれば・・・と思うと少々悔やまれが、はっきりしたことで何だか胸のつかえがとれたような感じ。食べなくなった原因は、口ではなく、やはりお腹が痛くて食べられないのか?現在は神経障害も出てしまい、脳まで侵されはじめてしまったということ。余計に食べられない・・・。

 その後の先生の話は、「正直言って、つらい話かもしれないし、こんな話をして気を悪くするかもしれないが、今こうしてうさちゃんが生き延びているのは抗生物質のお陰。抗生物質で生かしている状況。貧血状態も脱水症状もかなり進んでいる。これで本当に全く食べられない状態になれば安楽死の選択だって出てくる。お預かりして(入院)強制給餌したとしても、この状態だと、死ぬまでおうちに帰ることができない可能性のほうが高い。病院で預かったところで、回復は約束できない。それなら自宅で好きなものを食べさせて看取ってあげたほうが幸せかも。安楽死という選択も、もう出てきています。」というものだった。私も「 前回も、入院の話はお断りしているし、安楽死させる気はない。自宅でできるだけのことをしてあげるつもり。」と答え、自宅での色々な処置のアドバイスを受けている最中、先生の手の中のうさが、体を突っ張らせ、もがきはじめる。よくみると、眼振が。目が左右に揺れている。慌てて先生に言うと、先生は非常に落ち着いた様子でうさを押さえている。少ししてどうにか治まった。先生からのアドバイスも聞き終え、処置もして頂き、うさを連れて帰る段階になったが、先ほどの様子を見て、これから自宅まで連れて帰るのも心配になった。あまり良くないものとは百も承知だが、私から先生にステロイドの処方をお願いした。先生もそれを承知してくれ、この場でまず注射を打って、それから飲み薬として1週間分のステロイドを処方してくれることに。注射の用意をすると言って、先生が少し部屋を離れた間に、しゃがみこんで、診察台の上のうさと同じ目線になって体をいっぱい撫でた。いつものように、うさの額にいっぱいキスをした。「がんばれ」と何度も声を掛けた。うさの目のまわりと耳の白さが、ずっと増したように感じる。 
  その後、注射を打ち終えて、少し先生と話をしている時にまた硬直と眼振が。今回は先ほどよりも軽く短い。急いで家に帰ろう。 


お別れ   病院を後にして、タクシーで帰路に着いた。
  自宅まで、うさの体力はもたなかった。
  病院で懸念して注射してもらったのに、間に合わなかった。
  もう一度、ぴーちゃんに会わせてあげたかった。
  もう一度、美味しいものをたらふく食べさせてあげたかった。

  もう一度、元気に走らせてあげたかった。
  もう一度、河原に散歩に連れて行ってあげたかった。
  もう一度、抱きしめてあげたかった。


  うさ、4年と約11ヶ月の短い命。5歳の誕生日は目前だったのに。

  病院へ行かずに自宅でそっとしておいてあげたら、もう少し一緒にいられたかも・・・。一瞬、そんな考えも頭をよぎったが、やはりそうじゃない。今回病院へ連れて行ったことは決して間違った選択ではない。病院へ連れて行って、納得の行くまで診てもらえたし、うさの治療についての話をとことんすることができた。もし、連れて行かずに「口の中に問題があるのでは?」という疑問を抱いたまま、うさが旅立ってしまったら、きっとそれをつきとめてあげられなかったことでいつまでも後悔がのこるはず。自分に対しても、病院に対しても。 
  うさは、お月様に帰ってしまった。ぴーちゃんよりも一足早く。魂が飛び立ってしまったうさの入ったキャリーバッグは、ずっしりと重く感じた。生きているものが入っている感覚ではなかった。この感覚は一生忘れられないと思う。 

  自宅で、キャリーバッグからうさを出し、思いっきり抱きしめて、体をさすって、いっぱいキスをして、思いっきり泣いて・・・。ひとしきり落ち着いたところで、病院に電話を入れた。別に今しなくても・・・と思う方もいるだろうが、私はまず、あの先生に報告したかった。そしてお礼を言って電話を切った。ただ「ありがとうございました」と言いたかった。最後の最後にうさに関わってくれ、私の疑いを晴らしてくれた先生に。その後、うさパパに電話を入れた。ちょっと落ち着いたはずだったのに、さすがにうさパパ相手では気丈になれず、泣きじゃくりながら今日一日の次第を話した。そして、うさパパに花を買って帰ってきて欲しいとお願いした。

  うさはまだ少し温かい。最後の時に体を突っ張らせたせいで、片方の手が折れ曲がったまま硬直している。片方の足も、前にぴんと伸びたまま。いくらさすっても、もどらない。そして何より、目が違う。生と死で、こんなにも目がちがうなんて。うさの目は、両目とも開いたまま。いつもは目の表面は潤っていたが今は潤いがない。なんだかぶよぶよ。乾いた両目に、いつも点していた目薬を点してあげた。そして、手でまぶたを下ろした。でも、なんどやってもまた目が開いてしまう。生きているかのように。うさの体をまんべんなく撫でる。下半身、お腹側に下痢便がついていて汚れている。真っ白だった口の周りと両手先も、食べこぼしで薄茶色に汚れている。もう一度きれいにしてあげたい。きれいな真っ白の毛にしてあげたい。そう思った私は、迷わずシャンプーを持ってうさを風呂場に連れて行った。洗面器にうさの体を入れ、左手で座らない首を支え、右手でシャワーをかけた。丁寧に丁寧に汚れた体を洗った。途中、私はちょっと気がふれたのかもしれないと思った。いきなりこんなことをして、狂ったかな?うさの体はきれいになったが、さっきよりもうさの死を強く感じることになってしまった。首がすわらない、体の肉が下がりきっている、だらんと重い・・・。濡れた体をバスタオルで包み、体をこする。胸が痛くなるほど、うさの体の細さを感じる。部屋へ連れ帰って、ドライヤーの温風をあてる。しかし、ここでまた生と死の違いを実感してしまった。いくら乾かしても乾かないのだ。うさが火傷してしまわないように気遣うが、本当に乾かない。体温が無いとこんなにも違うものなんだ。  途中、うさパパが花を持って帰宅。私は、「お願いだから、まだ見ないで。」と言い、待っていてもらう。うさパパには今のうさの姿を見せたくなかった。それは限りなく「死体」だから。魂の抜けた抜け殻みたいだから。きれいなふわふわのうさを見て欲しかった。しばらくして、「そんなにドライヤーをあててたら、うさが燃えちゃうよ。」とうさパパが言ってきた。「もう少しだから待ってて。」気が付いたらドライヤーをあてはじめてから、かれこれ1時間以上経っていた。本当に乾くまでには1時間半を要した。うさパパがうさに触れたときには、ドライヤーの熱のお陰で、うさは温かだった。真っ白な毛は限りなく真っ白になり、きれいでふわふわでやわらかだった。薄目をあけていて、うさパパが言ったようにまるで「眠っているみたい」だった。
 
   うさ用のピンクの座布団を敷いた小箱にうさを横向きに寝かせ、箱との隙間にうさパパの買ってきた花を詰めた。少し背中を丸めて、薄目をあけて、花にうずもれたうさは、とても愛らしい寝顔で、魂が抜けたとは思えないくらい。うさの顔を見つめていると不思議と微笑んでしまう。感謝の気持ちがあふれ出る。 
「今まで良く頑張ってくれたね。ありがとね。」ぴーちゃんを呼んで、うさと御対面させようとするが、ぴーちゃんはうさの近くによって来て一べつするのみ。よくわかっていないのかな。 
  そうだ、お線香。うさパパと二人で近くのコンビニに出掛ける。暖かで、風が気持ちのいい夜。散歩には最適だ。気が付いたら、うさパパの夕飯のことを忘れてた。線香と、ついでに夕飯も購入。ごはんなんて食べる気はなかったがそういえば朝から何も食べていなかったな。帰宅して、うさに線香をあげ、うさパパと食卓に向かい合う。「うさがうちの子で良かったね。うちに来てくれて良かったね。」と色々とうさの話をしているうちに、こんなときなのに食欲が。今日初めての食事がすんなり胃の中に収まった。 
   食後、タウンページを開いてペットの葬儀屋さん探し。条件は、私がうさと一緒に火葬場まで行き、私も立ち会いの上でうさを単独で焼き、お骨が拾えるところ。最近良くある火葬車が来て家の横で焼くシステムや、他の遺体と一緒に合同で焼くものや、業者が遺体を引き取りに来て、どこかで焼いた後にお骨を届けに来るというのは絶対に嫌。うさの体を私以外の手に渡したくないから。うさと離れるのは嫌だから。割と近くに、条件をかなえられる業者があったので、そこにお願いをした。明日の朝8時に車で迎えに来る。外見は普通のワゴンだけど中は霊柩車だそうだ。3人まで一緒に乗れるというので、うさと一緒にいれる。

   昨日までと同じように、うさのケージの中のクッションの上にうさの寝ている箱を置き、私もまた、ケージの前でうさと一緒に眠った。